東根の大けやき
健太は、玄関の前で、お父さんの帰りをまっていました。ほおには、たくさんのなみだが、こぼれています。おじいちゃんが、小さな弟の勇樹のめんどうばかりみるので、おじいちゃんに文句を言ってしかられてしまったのです。
お父さんは、なきながら立っているけんたを見つけると、仕事カバンを玄関において、健太をつれて、さんぽにでかけました。お父さんとのさんぽは、いつもきまって大けやきです。
「おじいちゃんはね、いつも勇樹のめんどうばかりみて、ぼく のことは、ちっともかまってくれないんだ。」
お父さんは、何も言わず大けやきに向かって歩いて行きます。
「おじいちゃんは、いつも勇樹とばかり遊んでいるんだ。」
けんたは、口をとげて言いました。
小学校の階段を上った広場のわきに、大けやきは立っています。
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大けやきを見上げた絵
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「健太。健太が勇樹くらいのころ、ここに来て遊んだことをおぼえているかい。」
「うん。ひなたぼっこをしたり、落ち葉をひろったりしたよ。」
おじいちゃんが、よく連れてきてくれたことを思い出しました。
「おじいちゃんは、太鼓が大好きなんだよ。大けやき太鼓の練習を見ていたとき、音に
あわせてぼくの手を持って、こうやって動かすんだよ。ほい、ほい、ほいって。」
健太は、いつのまにか、おじいちゃんの話を楽しそうにしていました。
「おとうさんも、小さかったころ、そうやっておじいちゃんに遊んでもらったよ。」
「ええっ、お父さんも?」
健太は、びっくりしてお父さんの顔をのぞきこみました。お父さんは、大きな大きなけやきのてっぺんを見つめています。
「健太がまだ小さかったころ、木のお医者さんが大けやきを見に来て言ったんだ。この大けやきは、生まれてから八千年以上もたつんだって。」
健太はおどろいて声も出ませんでした。
「日本一の大けやきなんだよ。ここらへんの人は、みんな、大けやきといっしょにくらしてきたんだよ。」
大けやきは、まるで空の上に根をはっているかのように、四方に枝を広げて立っています。一年中、じっと動かず。健太は、すいこまれるように大けやきを見上げていました。
┌───────┐ 「うわ~、これはすごい。大きいなあ。」
│ 健太が │ 「私たちは、東京から来たのですが、ぼくは、この近くの子?
│ 観光客 │ 毎日こんなすばらしい木を見ることができて、いいですね。」
│ と話をし │ 遠くから来た観光客の人たちが、口々に健太に話かけました。
│ ている │ 「うん、ぼくたちの日本一の大けやきだよ。」
│ 絵 │ カメラを手にして、大けやきを写している人たちに向かって、
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健太は大きな声で言いました。
│ │ 健太は、おじいちゃんとけんかしたことが、なんだかとても
└───────┘ 小さなことのように思えてきました。
【4年生対象】
東根の大けやき 3-(3)敬けん
共に暮らしてきた大けやきの存在に感動し、人間の力を越えたものに対する
畏敬の念を持つことができるようにする。
1995 12月 文溪堂 道徳副読本・山形県版